「最近やたらと水を飲む」「おしっこの量が増えた」「お腹がぽっこり出てきた」「左右対称に毛が薄くなってきた」——中高齢の犬にこうしたサインが現れたら、クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)かもしれません。クッシング症候群は、副腎から出るホルモン「コルチゾール」が過剰になることで全身にさまざまな症状が出る病気です。
ゆっくり進行するため「歳のせい」と見過ごされやすい一方、放置すると糖尿病や感染症などを併発することもあります。この記事では、犬のクッシング症候群の症状・原因・診断と治療、そして日常生活で飼い主が気をつけたいケアのポイントを獣医学的な根拠とともに解説します。
犬のクッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)とは
クッシング症候群は、腎臓の近くにある副腎から分泌される副腎皮質ホルモン(コルチゾール)が過剰になる病気です。コルチゾールは本来、体のストレス対応や代謝に欠かせないホルモンですが、出すぎると全身にさまざまな不調を引き起こします。正式には「副腎皮質機能亢進症」と呼ばれます。
下垂体性と副腎性の2タイプ
クッシング症候群の多くは、脳の下垂体にできた小さな腫瘍が原因でコルチゾールが過剰になる「下垂体性」です。犬のクッシング症候群のおよそ8割が下垂体性で、残りが副腎そのものの腫瘍による「副腎性」とされています。どちらのタイプかによって治療方針が変わるため、検査での見極めが重要です。
犬のクッシング症候群の症状|多飲多尿・脱毛・ポットベリー
クッシング症候群の症状は、ゆっくりと現れて少しずつ進行します。とくに多飲多尿・食欲増加・左右対称の脱毛・お腹が膨れる(ポットベリー)は、代表的なサインです。
- 水を異常に飲む・おしっこの量と回数が増える(多飲多尿)
- よく食べるのに元気がない
- お腹がぽっこり膨れる(ポットベリー)
- 胴体を中心に左右対称に毛が薄くなる
- 皮膚が薄くなる・黒ずむ・感染を繰り返す
- ハアハアと荒い呼吸(パンティング)が増える
- 筋力の低下・疲れやすさ
Wehnerら(2021)は、トリロスタンで治療中の犬において、ACTH刺激試験の結果と多飲多尿などの臨床症状との関連を検討しています。またGolinelliら(2026)は、トリロスタンの効きが悪い下垂体性の犬の臨床・画像・検査所見を評価しており、症状の背景を把握する手がかりになります。
犬のクッシング症候群の原因と好発犬種・年齢
クッシング症候群は中高齢の犬に多く、プードル・ダックスフンド・テリア種などで比較的よくみられます。前述のとおり原因の多くは下垂体の腫瘍ですが、長期間ステロイド薬を使うことで似た状態(医原性)になることもあります。
犬のクッシング症候群の診断|血液検査とホルモン検査
診断では、血液検査や尿検査に加えて、ホルモンの状態を調べる専門的な検査(ACTH刺激試験や低用量デキサメタゾン抑制試験)、腹部エコーを組み合わせます。多飲多尿や左右対称の脱毛に気づいたら、早めに動物病院で相談することが早期発見につながります。
Yooら(2026)は、機械学習を使って犬のクッシング症候群を早期にスクリーニングする試みを報告しており、早期発見に向けた研究も進んでいます。
犬のクッシング症候群の治療と生活管理
下垂体性・副腎性のどちらでも、内科治療の中心は副腎のホルモン産生を抑える薬(トリロスタンなど)です。Carvalhoら(2026)は、欧州の一次診療でのクッシング症候群の治療とモニタリングの実態を調べ、投薬後の定期的な再検査が欠かせないことを示しています。
Tagliasacchiら(2026)は、トリロスタン治療がクッシング症候群に伴うタンパク尿を改善しうることを報告しています。さらにShanllyら(2025)は、内科治療が犬のクッシング症候群の生存に与える効果をメタ解析で検討しています。治療は一度始めたら終わりではなく、用量調整のための定期的なモニタリングが生涯にわたって必要です。
クッシング症候群のケアを助けるサプリ・グッズ4選
クッシング症候群の治療はトリロスタンなどの処方薬が基本で、以下のグッズはあくまで症状のケアを助ける補助です。導入前には必ずかかりつけの獣医師に相談してください。
皮膚や被毛が傷みやすくなるため、オメガ3(EPA・DHA)を含むオイルで被毛ケアを補助できます。
皮膚の感染を繰り返しやすいので、清潔を保つための薬用シャンプーも役立ちます。
水をよく飲むようになるため、いつでも新鮮な水を飲める循環式給水器が便利です。
肝臓の数値が気になる子には、肝臓をいたわる成分を配合したサプリも選択肢になります。
皮膚の感染を繰り返しやすい一方、毎回シャンプーするのが難しいときは、水のいらないドライシャンプーで体を清潔に保つ方法もあります。
併発しやすい病気と注意点
クッシング症候群の犬は、糖尿病・高血圧・膵炎・皮膚や膀胱の感染症などを併発しやすいことが知られています。定期的な検査で、これらの合併症を早めに見つけることが大切です。
とくに膵炎は高脂血症とも関わり、クッシングの犬で注意したい病気です。犬の膵炎|症状と低脂肪フードのケアもあわせて参考にしてください。

また、糖尿病の併発も多いため、体重や血糖の管理も重要です。犬の肥満と糖尿病リスク|体重管理の科学も参考になります。

まとめ
犬のクッシング症候群は、多飲多尿・食欲増加・ポットベリー・左右対称の脱毛などをきっかけに気づかれる、中高齢に多いホルモンの病気です。ゆっくり進行するため見過ごされやすいですが、早期に診断して薬で適切にコントロールすれば、生活の質を保ちながら付き合っていけます。治療は定期的なモニタリングが前提で、糖尿病や膵炎などの併発にも注意が必要です。気になるサインがあれば、早めに動物病院で相談しましょう。
参考文献
- Golinelli S, Fracassi F, Del Baldo F, et al. (2026). Evaluation of clinical, ultrasonographic, and clinicopathological findings in dogs with pituitary-dependent hypercortisolism and poor trilostane response. Journal of Veterinary Internal Medicine.
- Wehner A, Glockner S, Weiss B, et al. (2021). Association between ACTH stimulation test results and clinical signs in dogs with hyperadrenocorticism treated with trilostane. The Veterinary Journal.
- Yoo YJ, Jeong K, Seo H, et al. (2026). Machine learning-assisted screening for canine Cushing’s syndrome. The Veterinary Quarterly.
- Carvalho MF, Bennaim M, Golinelli S, et al. (2026). Treatment and monitoring of naturally occurring Cushing’s syndrome by primary care veterinarians in selected European countries. Journal of Veterinary Internal Medicine.
- Tagliasacchi F, Fracassi F, Poli M, et al. (2026). Effect of trilostane treatment on proteinuria secondary to spontaneous hypercortisolism in dogs. Journal of Veterinary Internal Medicine.
- Shanlly S, Slessor J, Yan W, et al. (2025). Effectiveness of Medical Treatment on Survivability in Canine Cushing’s Syndrome: A Systematic Review and Meta-Analysis. Animals (Basel).
犬の尿路結石・膀胱炎のケアについては犬の尿路結石・膀胱炎|犬の下部尿路疾患の予防と療法食でも解説しています。

肝臓の数値が気になるときは【獣医師監修】犬の肝臓病・胆泥症も参考になります。

副腎の病気のもう一方は【獣医師監修】犬のアジソン病でも解説しています。

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