「猫の目やにが増えた」「片目を細めてショボショボさせている」——こうした目のトラブルで最も多いのが結膜炎と角膜炎です。とくに子猫や多頭飼育の猫では、ウイルスや細菌による感染性の目の病気が繰り返し起こりやすく、放置すると角膜に傷が残ることもあります。
猫の結膜炎は目やに・涙・充血といった身近なサインから始まりますが、その裏に角膜潰瘍などの重い病気が隠れていることもあります。この記事では、猫の結膜炎と角膜炎を中心に、原因・危険サイン・受診の目安・自宅での目元ケアまでを獣医学論文に基づいて解説します。
猫の結膜炎・角膜炎とはどんな病気か
結膜炎はまぶたの裏と白目をおおう「結膜」の炎症、角膜炎は黒目の表面をおおう透明な「角膜」の炎症です。猫では両者が同時に起こることも多く、見分けがつきにくいのが特徴です。Charnockら(2025)は、猫の上部気道感染症にともなう眼症状の臨床管理を総説でまとめ、結膜炎や角膜炎が猫で非常にありふれた眼科疾患であることを示しています。
結膜炎のサインと見た目の変化
結膜炎では白目やまぶたの裏が赤く充血し、目やにや涙が増えます。片目だけのこともあれば両目に広がることもあり、まばたきが増えたり、まぶたが腫れて目が開けにくそうに見えたりします。目やにの色は透明〜白っぽいものから、感染が進むと黄緑色のネバついたものに変わることがあります。猫がしきりに前足で顔をこする、カーペットに顔をこすりつけるといった行動も、目の不快感のサインです。
角膜炎・角膜潰瘍のサイン
角膜炎になると黒目が白く濁ったり、表面がデコボコして見えたりし、強い痛みから目を細める・まぶたをピクピクさせる様子が出ます。角膜の表面が削れて傷になったものが角膜潰瘍で、進行すると角膜に穴があく危険もあります。涙が止まらない、まぶしがって暗い所に隠れる、片目をずっと閉じているといった症状は、角膜のトラブルを強く疑うサインです。
猫の目のつくりと「第三眼瞼」
猫には目頭側に「第三眼瞼(瞬膜)」という薄い膜があり、体調が悪いと目頭から白い膜がせり出してくることがあります。瞬膜が出たままになっている、左右で目の大きさが違う、まぶたの内側が赤く腫れているといった変化は、目そのものの病気だけでなく、全身の不調のサインのこともあります。日頃から左右の目を見比べ、いつもと違う点に早く気づけるようにしておきましょう。
猫の結膜炎・角膜炎の主な原因
猫の結膜炎・角膜炎で最も多いのは、ウイルスや細菌による感染性のものです。原因を知ることで、再発を防ぐ対策や多頭飼育での広がりを抑える工夫につなげられます。
猫ヘルペスウイルス(FHV-1)
猫の結膜炎・角膜炎の原因として代表的なのが、猫ヘルペスウイルス1型(FHV-1)です。いわゆる猫風邪の原因ウイルスで、くしゃみや鼻水とともに結膜炎を起こします。Thomasyら(2016)は、FHV-1に対する抗ウイルス薬や各種化合物をレビューし、このウイルスが猫の角膜・結膜疾患の重要な原因であることを整理しています。一度感染すると神経に潜伏し、ストレスや体調不良をきっかけに再発するのが厄介な点です。

クラミジア・マイコプラズマ
細菌に近い微生物であるクラミジア(Chlamydia felis)やマイコプラズマも、猫の結膜炎の代表的な原因です。Zhangら(2026)は、猫のクラミジアを検出する診断法の開発を報告しており、クラミジアが猫の結膜炎で広く関わる病原体であることを前提としています。クラミジアによる結膜炎は目頭側から強い充血とむくみが出やすく、子猫や多頭飼育の猫で集団発生することがあります。
外傷・異物・まつげの異常
猫同士のケンカによる引っかき傷や、植物の種・ほこりなどの異物も、角膜炎や結膜炎の原因になります。とくに屋外に出る猫や多頭飼育では、爪による角膜の傷が珍しくありません。まぶたの形の異常やまつげが内側を向く病気があると、慢性的に角膜を刺激し続けて炎症が長引きます。急に片目だけ痛がる場合は、まず外傷や異物を疑い、早めに受診することが大切です。
短頭種の猫で起こりやすい目のトラブル
ペルシャやエキゾチックショートヘアなどの短頭種の猫は、目が大きく突き出た構造から涙やけや目の病気を起こしやすい傾向があります。Ozdemirら(2026)は、短頭種の犬猫の眼疾患を調べた臨床研究で、顔の構造が目のトラブルのリスクに関わることを示しています。鼻が低い猫は涙の通り道が曲がりやすく、涙があふれて目元が常に湿り、結膜炎や涙やけを繰り返しやすくなります。

アレルギー・環境要因
ハウスダストや花粉、タバコの煙、香りの強い柔軟剤などの刺激も、猫の目のかゆみや結膜炎の引き金になります。皮膚のかゆみをともなうアレルギー体質の猫では、目元にも症状が出ることがあります。感染性ではないため人や他の猫にはうつりませんが、刺激源を取り除かないと慢性化しやすいのが特徴です。空気の清浄や寝床の清潔を保つことが、目元の負担を減らす助けになります。

受診の目安と動物病院での治療
目の病気は進行が早いものがあり、とくに角膜潰瘍は数日で悪化することがあるため、自己判断せず早めの受診が基本です。ここでは受診の目安と、動物病院で行われる検査・治療を整理します。
すぐ受診すべき危険サイン
黒目が白く濁る、目を開けられない、涙が止まらない、まぶしがって隠れるといったサインは、角膜潰瘍など緊急性の高い状態を疑います。下の表の症状が一つでもあれば、様子見をせず動物病院へ相談しましょう。
| サイン | 疑われる状態 | 対応 |
|---|---|---|
| 目やに・軽い充血のみ | 軽度の結膜炎 | 早めに受診・自宅ケア併用 |
| 片目を強く細める・涙が多い | 角膜炎・角膜潰瘍の疑い | 当日〜翌日に受診 |
| 黒目が白く濁る・デコボコ | 角膜潰瘍の進行 | できるだけ早く受診 |
| 目が開かない・顔が腫れる | 重い感染・緊急 | すぐに受診 |
動物病院で行われる検査
動物病院では、角膜の傷を調べる染色検査や、涙の量を測る検査などで原因を見極めます。フルオレセインという色素を使うと、肉眼では見えない角膜の傷が緑色に光って確認できます。涙の量を調べる検査で涙が少なすぎないかを確認したり、必要に応じて結膜から検体を採ってウイルスや細菌を調べたりします。原因に合わせた治療を選ぶために、こうした検査が欠かせません。
点眼薬による治療
治療の中心は点眼薬で、細菌には抗菌薬、ヘルペスウイルスには抗ウイルス点眼薬が使われます。Ledbetterら(2026)は、FHV-1性角膜炎の猫に対する抗ウイルス薬(ペンシクロビル)の局所点眼を評価しており、ウイルス性角膜炎に対する点眼治療の研究が進んでいることを示しています。処方された点眼薬は自己判断で中断せず、回数と期間を守って続けることが、再発や悪化を防ぐうえで重要です。
抗ウイルス・内服による治療
症状が重い場合や全身症状をともなう場合は、点眼に加えて内服の抗ウイルス薬などが使われることがあります。Ozkanlarら(2023)は、FHV-1に感染した猫に対する抗ウイルス薬の併用治療を臨床的に評価し、治療の選択肢を検討しています。どの薬を使うかは症状や原因によって異なるため、必ず獣医師の指示に従い、人用の目薬を自己判断で使わないようにしましょう。
目のケアにおすすめのアイケア用品・サプリ
ここからは、通院治療と並行して自宅で使える目元ケア用品やサプリを紹介します。いずれも治療薬の代わりにはならないため、症状があるときはまず受診し、ケア用品は補助として取り入れましょう。処方された点眼薬は市販品で置き換えないでください。
目元を拭く洗浄ローション
目のまわりに固まった目やにや涙の汚れは、低刺激の洗浄ローションでふやかしてから優しく拭き取ります。乾いたまま無理にこすると皮膚を傷めるため、コットンに含ませてそっと当てるのがコツです。
涙やけ・目やにの拭き取りシート
毎日のこまめな拭き取りには、洗浄液を含んだ使い捨てのケアシートが便利です。目のまわりが湿ったままだと雑菌が繁殖しやすいため、拭いた後は乾いたコットンで軽く水分を取ると清潔を保てます。
多頭飼育では、1枚ずつ小分けになったシートを使うと感染を広げにくく衛生的です。猫ごとにシートを使い分け、1匹拭いたら手を洗ってから次の猫に移るようにしましょう。
固まった目やにのブラシケア
目頭にこびりついて取れにくい目やには、ふやかした後に専用のミニブラシで優しくからめ取ると落としやすくなります。デリケートな目のまわりなので、猫が嫌がるときは無理をせず、短時間で切り上げることが大切です。
L-リジンなどの補助サプリ
猫ヘルペスの再発対策として、アミノ酸のL-リジンを含むサプリが市販されています。Bolら(2015)は、L-リジン補給が猫ヘルペスウイルス感染の予防・治療に有効とは言えないとするレビューを報告しており、過度な期待は禁物です。あくまで日々の体調管理の一つとして位置づけ、効果が感じられないときは漫然と続けず獣医師に相談しましょう。
自宅での目元ケアと多頭飼育の感染対策
治療と並行した自宅ケアと、他の猫にうつさない工夫が、結膜炎・角膜炎の悪化や再発を防ぐ鍵になります。毎日の習慣として無理なく続けられる方法を押さえておきましょう。
目元の拭き取りと点眼のコツ
目やにはぬるま湯で湿らせたコットンで、目頭から目尻に向かって一方向に拭き取ります。左右で同じコットンを使い回さず、片目ずつ新しい面を使うのが基本です。点眼は後ろから優しく頭を支え、猫が気づかないうちにサッと落とすと嫌がりにくくなります。嫌がってどうしても難しいときは、無理をせず動物病院でコツを教わりましょう。
涙やけを悪化させない環境づくり
目元が常に湿っていると涙やけや皮膚炎を招くため、拭いた後はしっかり乾かし、清潔を保つことが大切です。ほこりの少ない環境を整え、空気がこもらないよう換気を心がけましょう。香りの強い製品や煙は目への刺激になるため避けます。水分をしっかり取れるようにし、全身の健康を保つことも、涙や目やにのトラブルを減らす助けになります。
多頭飼育での感染を広げない工夫
FHV-1やクラミジアは接触や飛沫で広がるため、症状のある猫は可能な範囲で隔離し、食器やタオルを分けます。1匹ケアするごとに手を洗い、使ったシートはすぐ処分しましょう。新しく猫を迎えるときは、しばらく別部屋で過ごさせてから合流させると、感染の持ち込みを抑えられます。ワクチンは猫風邪の重症化を抑える助けになるため、接種スケジュールを獣医師と相談しておくと安心です。
まとめ
猫の結膜炎・角膜炎は、目やに・涙・充血・目を細めるといった身近なサインから気づける一方で、角膜潰瘍のように急いで治療が必要な病気が隠れていることもあります。原因の多くは猫ヘルペスウイルスやクラミジアなどの感染で、外傷やアレルギーが関わることもあります。猫の結膜炎は再発しやすい病気でもあるため、危険サインがあればためらわず受診し、処方された点眼を正しく続けることが何より大切です。自宅では目元の清潔を保ち、多頭飼育では感染を広げない工夫を。市販のケア用品やサプリはあくまで補助として、愛猫の目の健康を日々見守ってあげましょう。
参考文献
- Charnock L, et al. (2025). Clinical Management of Ophthalmic Manifestations of Upper Respiratory Tract Infections in Cats. Vet Clin North Am Small Anim Pract.
- Thomasy SM, et al. (2016). A review of antiviral drugs and other compounds with activity against feline herpesvirus type 1. Vet Ophthalmol.
- Bol S, et al. (2015). Lysine supplementation is not effective for the prevention or treatment of feline herpesvirus 1 infection in cats. BMC Vet Res.
- Ledbetter EC, et al. (2026). Evaluation of topical ophthalmic application of penciclovir cream in cats with experimental feline herpesvirus-1 keratitis. Am J Vet Res.
- Ozkanlar Y, et al. (2023). Clinical evaluation of antiviral combination treatment in cats with feline herpesvirus-1 infection. Pol J Vet Sci.
- Zhang H, et al. (2026). Development of an indirect ELISA based on the major outer membrane protein for detection of Chlamydia felis. J Vet Diagn Invest.
- Ozdemir E, et al. (2026). Ocular disorders in brachycephalic cats and dogs: A clinical study from Türkiye. Can J Vet Res.
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