「最近よく寝てばかりで散歩に行きたがらない」「食べる量は変わらないのに太ってきた」「毛が薄くなって寒がるようになった」——中高齢の犬にこうした変化が現れたら、甲状腺機能低下症かもしれません。甲状腺機能低下症は、全身の代謝を調整する甲状腺ホルモンが不足し、体のはたらきが全体的にゆっくりになる病気です。
猫では甲状腺ホルモンが「増えすぎる」亢進症が多いのに対し、犬では「足りなくなる」低下症が代表的です。ゆっくり進むため老化と間違われやすい一方、適切な薬でコントロールすれば元気を取り戻せる病気です。この記事では、犬の甲状腺機能低下症の症状・原因・診断と治療、日常ケアのポイントを解説します。
犬の甲状腺機能低下症とは|代謝が落ちる病気
甲状腺はのどのあたりにある小さな臓器で、全身の代謝を調整する甲状腺ホルモンを分泌しています。甲状腺機能低下症では、このホルモンが不足し、心拍・体温・皮膚・活動量など体のあらゆるはたらきがゆっくりになります。Elgalfyら(2025)は、さまざまな犬種における甲状腺機能低下症の発生状況や合併症、治療効果を評価しています。
甲状腺ホルモンの役割
甲状腺ホルモンは、食べたものをエネルギーに変える代謝の「アクセル」のような役割を担っています。このホルモンが減ると、エネルギー消費が落ちて太りやすくなり、体温も下がって寒がるようになります。
犬の甲状腺機能低下症の症状|元気がない・太る・脱毛・寒がり
症状は全身にゆっくり現れ、「歳のせい」と見過ごされがちです。元気がない・体重増加・左右対称の脱毛・寒がりは、甲状腺機能低下症の代表的なサインです。
- 元気がない・寝てばかり・散歩を嫌がる
- 食事量は変わらないのに太る
- 胴体を中心に左右対称に毛が薄くなる
- 皮膚が黒ずむ・フケ・皮膚感染を繰り返す
- 寒がる・体温が低め
- 顔がむくんで見える・表情が乏しい
- 脈がゆっくりになる(徐脈)
多飲多尿やお腹の張り(ポットベリー)が目立つクッシング症候群とは異なり、甲状腺機能低下症は「無気力・寒がり・太る」といった代謝が落ちたサインが中心です。見分けが難しいこともあるため、気になる症状は犬のクッシング症候群とあわせて獣医師に相談しましょう。
犬の甲状腺機能低下症の原因と好発犬種・年齢
原因の多くは、免疫の異常で甲状腺が壊れていく自己免疫性の甲状腺炎です。中高齢で発症しやすく、ゴールデン・レトリバーやラブラドール、ダックスフンド、柴犬など、比較的かかりやすい犬種が知られています。
犬の甲状腺機能低下症の診断|甲状腺ホルモン検査
診断では、血液中の甲状腺ホルモン(T4・遊離T4)と、それを調整するホルモン(TSH)を測定します。Corsiniら(2024)は、甲状腺以外の病気があると甲状腺ホルモン値が一時的に下がること(非甲状腺疾患症候群)を示しており、他の病気の影響を除いて判断する必要があります。
Rußら(2026)は、甲状腺機能低下症と非甲状腺疾患を見分ける指標としてリバースT3を検討しています。またCorsiniら(2023)は、機械学習を用いた甲状腺機能低下症の診断予測モデルを開発しており、複数の検査結果を総合して診断することが正確な見極めにつながります。
犬の甲状腺機能低下症の治療|甲状腺ホルモン薬の生涯投与
治療は、不足した甲状腺ホルモンを薬(レボチロキシン)で補うのが基本です。Zhuら(2025)は、甲状腺機能低下症の犬にレボチロキシンを用いた治療の効果を、酸化ストレスの指標から評価しています。投薬を続ければ症状の多くは改善しますが、適量を保つため定期的な血液検査での用量調整が欠かせません。
甲状腺機能低下症のケアを助けるサプリ・グッズ4選
甲状腺機能低下症の治療はレボチロキシンなどの処方薬が基本で、以下のグッズは症状のケアを助ける補助です。導入前には必ずかかりつけの獣医師に相談してください。
皮膚や被毛が傷みやすいため、オメガ3オイルで被毛ケアを補助できます。
皮膚トラブルを起こしやすいので、清潔を保つ薬用シャンプーも役立ちます。
代謝が落ちて太りやすくなるため、満腹感を保ちやすい体重管理フードが便利です。
寒がりになるので、冬場はあたたかいドーム型ベッドで快適に過ごせます。
猫の甲状腺機能亢進症との違いと注意点
同じ甲状腺の病気でも、犬は「低下症(太る・無気力)」、猫は「亢進症(痩せる・活発すぎる)」が多いという違いがあります。症状が正反対に近いため、犬と猫で見るべきサインが変わります。
猫の甲状腺の病気については猫の甲状腺機能亢進症|症状と治療でくわしく解説しています。

まとめ
犬の甲状腺機能低下症は、元気がない・太る・左右対称の脱毛・寒がりといった「代謝が落ちたサイン」で気づかれる、中高齢に多いホルモンの病気です。ゆっくり進むため老化と間違われやすいですが、血液検査で診断し、甲状腺ホルモン薬を続ければ多くの症状は改善します。治療は生涯にわたる定期的な用量調整が前提です。気になる変化があれば、早めに動物病院で甲状腺ホルモンを調べてもらいましょう。
参考文献
- Elgalfy GE, Ghanem MM, Helal MAY, et al. (2025). Incidence, complications and therapeutic evaluation of clinical hypothyroidism in different breeds of dogs. BMC Veterinary Research.
- Corsini A, Del Baldo F, Lunetta F, et al. (2024). Total thyroxine, triiodothyronine, and thyrotropin concentrations during acute nonthyroidal illness and recovery in dogs. Journal of Veterinary Internal Medicine.
- Corsini A, Lunetta F, Alboni F, et al. (2023). Development and internal validation of diagnostic prediction models using machine-learning algorithms in dogs with hypothyroidism. Frontiers in Veterinary Science.
- Russ J, Mueller RS, Glos K, et al. (2026). Serum reverse triiodothyronine in dogs with hypothyroidism, nonthyroidal illness syndrome and healthy dogs. PLoS One.
- Zhu L, Han J, Bahetijiang H, et al. (2025). Redox status of biomarkers in serum of dogs with hypothyroidism and its treatment with levothyroxine sodium. Frontiers in Veterinary Science.
見逃しやすい内分泌疾患として【獣医師監修】犬のアジソン病も参考になります。

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