「目やにがネバついて増えた」「白目がいつも充血している」——その犬の目のトラブル、涙が足りていないサインかもしれません。犬のドライアイ(乾性角結膜炎・KCS)は、涙の分泌が減って角膜や結膜が乾いてしまう病気です。気づかずに放置すると角膜が傷つき、最悪の場合は失明につながることもあります。
この記事では、犬のドライアイの見分け方・原因・診断・治療と在宅ケアまで、獣医学論文をもとに整理して解説します。早めに気づいて適切な点眼ケアを続けることが、犬の目を守るうえで何より大切です。
犬のドライアイ(乾性角結膜炎)とはどんな病気か
犬のドライアイは、涙の量や質が不足して角膜と結膜が乾き、炎症を起こす慢性の目の病気です。正式には乾性角結膜炎(KCS)と呼ばれ、英語ではdry eyeとも表現されます。涙は目の表面をうるおし、酸素や栄養を届け、ゴミや細菌を洗い流す役割を担っています。この涙が減ると目の表面は常に乾いた状態にさらされ、ダメージが蓄積していきます。
涙の膜が目を守るしくみ
目の表面をおおう涙は、脂・水・ムチン(粘液)の3層からなる薄い膜(涙液膜)を形づくっています。このうち水の層をつくる涙腺の働きが低下すると、犬のドライアイが起こります。涙が足りないと膜はすぐに乾いて途切れ、角膜の表面がむき出しになります。本来なめらかで透明な角膜が乾くことで、見え方にも影響が出てきます。
放置するとどうなるか
犬のドライアイを放置すると、角膜の潰瘍や色素沈着が進み、視力低下や失明に至るおそれがあります。乾いた角膜は傷つきやすく、細菌感染も起こしやすくなります。慢性化すると角膜が黒っぽく濁ったり血管が入り込んだりして、透明性が失われます。痛みやかゆみで犬の生活の質も大きく下がるため、早期発見と継続ケアが欠かせません。
犬のドライアイのサイン・症状
ネバついた目やにが増える・白目の充血・まばたきの増加は、犬のドライアイを疑う代表的なサインです。涙が少ないと目やにが乾いて糸を引くように粘り、目頭にたまりやすくなります。初期は見逃されがちですが、いくつかのサインが重なったら早めに動物病院へ相談しましょう。
見逃しやすい初期サイン
目の表面につやがなく、乾いて見えるのは初期の重要なサインです。うるおいのある健康な目はしっとり光を反射しますが、ドライアイの目はくすんで見えます。しょぼしょぼと目を細める、床や家具に顔をこすりつける、光をまぶしがるといった行動も、乾きや不快感のあらわれです。片目だけに症状が出ることもあります。
進行したときのサイン
角膜が白く濁ったり黒ずんだりしてきたら、犬のドライアイがかなり進行している可能性があります。慢性の刺激で角膜に色素が沈着し、茶色〜黒っぽく変化します。これは失われた涙の代わりに体が角膜を守ろうとする反応ですが、範囲が広がると視野をさまたげます。角膜に血管が伸びる、潰瘍ができて強い痛みが出るといった状態も進行のサインです。
主な症状の一覧
犬のドライアイの症状は、目やに・充血・まばたきなど複数のサインが組み合わさって現れます。下の表で代表的な症状をまとめました。日々の観察の目安にしてください。
| 症状 | 状態の特徴 |
|---|---|
| ネバつく目やに | 黄白色で糸を引く。目頭にこびりつきやすい |
| 充血 | 白目が赤い。結膜が腫れぼったく見える |
| まばたき増加 | 乾きや違和感でしょぼしょぼする |
| 角膜の濁り・色素沈着 | 黒目が白く濁る、茶〜黒色に変化する |
| 目をこする | 前足や床で顔をこすりつける |
犬のドライアイの原因
犬のドライアイの原因で最も多いのは、自分の免疫が涙腺を攻撃してしまう免疫介在性のタイプです。このほか内分泌の病気、薬の副作用、神経の障害など、涙の分泌が減る背景はさまざまです。Hermidaら(2021)は免疫介在性の乾性角結膜炎に対する全身的な治療を検討しており、免疫の関与がこの病気の中心的な要因であることを裏づけています。
免疫介在性(最も多い原因)
免疫介在性のドライアイは、本来守るべき涙腺を免疫細胞が異物とみなして攻撃することで起こります。涙腺の組織が少しずつ破壊されて涙が作れなくなり、慢性的な乾燥へとつながります。はっきりした引き金がないことも多く、ゆっくり進行するのが特徴です。免疫の暴走を抑える点眼薬が治療の中心になります。
かかりやすい犬種
短頭種や特定の犬種は、犬のドライアイにかかりやすいことが知られています。シー・ズー、パグ、ペキニーズ、イングリッシュ・ブルドッグ、キャバリア、ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリア、コッカー・スパニエルなどが代表例です。目が大きく露出しやすい構造や、免疫的な素因が関係すると考えられています。好発犬種では日ごろから目の様子を意識して観察すると安心です。
内分泌・薬剤・神経などの要因
甲状腺機能低下症や糖尿病などの内分泌疾患も、犬のドライアイの背景になることがあります。一部の薬剤(サルファ剤など)が副作用として涙の分泌を減らすこともあり、服薬中に目やにが増えたときは注意が必要です。また、顔の神経の障害で涙腺への信号がうまく伝わらず乾くタイプもあります。原因によって対処が変わるため、全身状態を含めた評価が大切です。

犬のドライアイの診断
犬のドライアイの診断には、涙の量をはかるシルマー涙液試験が基本になります。専用の試験紙を下まぶたにはさみ、一定時間でしみ込む涙の長さを測定します。Keenenら(2026)は犬の涙液産生の測定について検査の順序が結果に影響しうることを報告しており、正しい手順での評価が重要であることを示しています。数値をもとに、乾きの程度を客観的に判断します。
シルマー涙液試験の数値の目安
シルマー涙液試験の値が低いほど、犬のドライアイが疑われます。一般に1分あたりの涙の量が十分であれば正常、少なければ涙液の不足と判断されます。あくまで目安であり、症状や他の検査と合わせて総合的に評価します。下の表は目安としての区分です。
| 目安区分 | 解釈 |
|---|---|
| 十分な涙量 | 正常範囲。乾燥の心配は少ない |
| やや少なめ | 軽度〜中等度の乾きが疑われる |
| 明らかに少ない | ドライアイの可能性が高い。治療を検討 |
角膜の状態を調べる検査
涙の量だけでなく、角膜に傷や潰瘍がないかもあわせて確認します。フルオレセインという染色液で角膜を染め、傷がある部分を浮かび上がらせて評価します。Sussadeeら(2021)はドライアイの犬で点眼治療によって涙に含まれるタンパク質の組成が変化することを示しており、涙の「質」の面からも目の状態をとらえる視点が広がっています。
犬のドライアイの治療
犬のドライアイの治療の中心は、免疫を抑えて涙の分泌を促すシクロスポリンやタクロリムスの点眼薬です。あわせて不足する涙を補う人工涙液を使い、角膜のうるおいを保ちます。García-Santistebanら(2024)は乾性角結膜炎の犬に対する免疫抑制性の点眼治療を比較検討しており、これらの薬剤が治療の柱であることを示しています。症状や進行度に応じて組み合わせを調整します。
免疫を抑える点眼薬
シクロスポリンやタクロリムスの点眼は、涙腺への免疫の攻撃をやわらげて涙の分泌を回復させます。Estanhoら(2023)は0.03%タクロリムスの点眼をドライアイの犬で評価しており、免疫抑制性の点眼が涙の改善に役立つことを報告しています。効果が出るまで数週間かかることもあるため、自己判断でやめず継続することが大切です。処方や用量は必ず獣医師の指示に従ってください。
涙を補う人工涙液
人工涙液は、不足した涙の代わりに目の表面をうるおして乾きをやわらげます。ヒアルロン酸などを含むタイプは角膜にとどまりやすく、保湿効果が期待できます。Sebbagら(2026)はタクロリムスとヒアルロン酸の併用が犬の涙液膜の安定性を高めることを報告しており、免疫抑制薬と涙を補う点眼を組み合わせる意義が示されています。1日複数回のこまめな点眼が基本です。
治療の主な選択肢
犬のドライアイの治療は、点眼を中心に状態に応じて複数の方法を組み合わせます。下の表に主な選択肢を整理しました。いずれも獣医師の診断にもとづいて選びます。
| 治療 | 目的・特徴 |
|---|---|
| シクロスポリン点眼 | 免疫を抑え涙の分泌を促す。治療の基本 |
| タクロリムス点眼 | 免疫抑制作用。反応が弱いときの選択肢 |
| 人工涙液 | 不足した涙を補いうるおいを保つ |
| 抗菌・消炎点眼 | 二次感染や炎症がある場合に併用 |
目のケアにおすすめのアイケア用品・サプリ
在宅での目元ケアには、目のまわりを清潔に保つクリーナーやうるおいを助けるサプリが役立ちます。ただし処方された点眼薬の代わりにはなりません。あくまで日常ケアの補助として、獣医師の治療と併用して取り入れましょう。関連する目のトラブル対策は犬の涙やけ・目のトラブルの記事もあわせて参考にしてください。

① 目元を清潔に保つクリーナー
目やにがこびりつきやすいドライアイの犬には、目元用クリーナーでこまめに拭き取るケアが向いています。乾いて固まった目やにを無理にこすらず、ふやかして優しく取り除けます。
② 目のうるおいを助ける点眼タイプ
市販の犬用点眼(目の洗浄タイプ)は、乾きや目やにが気になるときの日常のうるおいケアに使えます。治療薬ではないため、気になる症状が続く場合は動物病院の受診を優先してください。
③ 目の健康をサポートするサプリ
ルテインなどを含む目のサプリは、年齢とともに気になる目の調子を内側からサポートします。食事に取り入れやすく、毎日の健康管理の一助になります。
④ 涙やけ・目元のにおいが気になるとき
涙や目やにの多さが気になる犬には、獣医師監修の涙やけサプリも選択肢になります。食事に混ぜるだけで続けやすく、目元のケアと並行して使えます。
在宅でできる犬のドライアイの目元ケア
自宅では、目やにの拭き取りと処方点眼の継続が犬のドライアイケアの両輪になります。毎日のちょっとした習慣が、角膜の傷や感染を防ぎ、治療効果を支えます。無理のない範囲で続けることが何より大切です。
目やにの正しい拭き取り方
目やには、湿らせたコットンで目頭から外側へ一方向に優しく拭き取ります。乾いた目やにを無理にこすると角膜を傷つけるため、ぬるま湯や目元クリーナーでふやかしてから取り除きましょう。左右の目で同じコットンを使い回さないこともポイントです。清潔を保つことで二次感染のリスクを減らせます。
点眼を続けるコツ
点眼は決められた回数を毎日同じタイミングで続けることが、犬のドライアイ改善の近道です。おやつと組み合わせて良い体験にする、後ろから顔を支えて驚かせないなどの工夫で嫌がりにくくなります。症状が落ち着いても自己判断で中止せず、獣医師と相談しながら続けましょう。目薬をさす前後は手を清潔にしてください。
動物病院を受診すべきサイン
目やにの急な増加や強い充血、目を開けられないほどの痛みがあれば、早めに受診してください。角膜潰瘍や感染が進むと短期間で悪化することがあります。点眼しても改善が見られない、片目だけ急に症状が出たといった場合も相談の目安です。日々の観察で「いつもと違う」に早く気づくことが、犬の目を守る第一歩になります。

まとめ
犬のドライアイ(乾性角結膜炎)は、涙の分泌が減って角膜が乾く慢性の目の病気です。ネバつく目やに・充血・まばたきの増加といったサインに早く気づくことが大切です。原因は免疫介在性が最も多く、好発犬種では特に注意が必要です。診断にはシルマー涙液試験が使われ、治療はシクロスポリンやタクロリムスの点眼と人工涙液が中心になります。放置すると失明のリスクもあるため、在宅での目元ケアと処方点眼の継続、そして気になるサインがあれば早めの受診を心がけましょう。
参考文献
- García-Santisteban R, et al. (2024). Subconjunctival liposomal sirolimus vs. cyclosporine or tacrolimus as treatment of keratoconjunctivitis sicca in dogs. Veterinary Ophthalmology.
- Hermida-Prieto M, et al. (2021). Systemic Treatment of Immune-Mediated Keratoconjunctivitis Sicca with Allogeneic Stem Cells in dogs. Journal of Clinical Medicine.
- Sussadee M, et al. (2021). Changes in tear protein profile in dogs with keratoconjunctivitis sicca following topical treatment. Veterinary World.
- Estanho GJG, et al. (2023). Comparison of topical 0.03% tacrolimus and homologous injectable platelet-rich plasma in dogs with keratoconjunctivitis sicca. Veterinary World.
- Sebbag L, et al. (2026). Tacrolimus and Hyaluronate Therapy Enhance Tear Film Stability in Canine Evaporative Dry Eye. Veterinary Ophthalmology.
- Keenen KR, et al. (2026). Effect of Order of Testing on Intraocular Pressure and Tear Production Measurement in Dogs. Veterinary Ophthalmology.
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