「散歩中に急にスキップするように歩く」「後ろ足を時々上げる」——そんな症状を愛犬に気づいたことはありませんか?それは膝蓋骨脱臼(パテラ)のサインかもしれません。
犬のパテラは小型犬に多い整形外科疾患です。英国の一次診療動物病院を対象とした疫学調査(O’Neill et al.(2016))では、受診犬全体の0.83%にパテラが認められ、チワワ・ポメラニアン・ヨークシャーテリア・トイプードルなどの小型犬種で発症リスクが高いことが示されています。
このページでは、犬のパテラの発症メカニズム・グレード分類から、進行を遅らせるためのサプリメントの科学的根拠まで、獣医師が論文をもとに解説します。
犬のパテラ(膝蓋骨脱臼)とは
膝蓋骨(ひざのお皿の骨)が正常な溝(滑車溝)からずれてしまう状態を膝蓋骨脱臼(パテラ)といいます。犬の場合、ほとんどは内方脱臼(膝蓋骨が内側にずれるタイプ)で、外方脱臼は比較的稀です。
Perry & Déjardin(2021)はJournal of Small Animal Practiceのレビューで、内方パテラは犬のパテラ症例の98%以上を占め、先天性・遺伝性の骨格異常を基盤とする疾患であることを強調しています。後天的な外傷で発症することもありますが、大部分は骨格の発育異常に起因します。
犬のパテラが起きる仕組み
犬のパテラは、膝関節を取り巻く解剖学的構造の複数の異常が組み合わさって起きます。Di Dona et al.(2018)はVeterinary Medicine: Research and Reportsで以下の要因を挙げています:
- 大腿骨の角度異常(大腿骨頭・頸部の形成不全など)
- 膝蓋骨の滑車溝の浅さ(溝が浅いと膝蓋骨が外れやすい)
- 脛骨粗面の内方偏位(膝の筋肉が引っ張る方向が内側にずれる)
これらが組み合わさることで、犬のパテラは膝蓋骨が正常な溝から内側にずれ、痛みや跛行(びっこ)を引き起こします。
犬のパテラのグレード(重症度)分類
犬のパテラは重症度によってグレード1〜4に分類されます(Di Dona et al., 2018)。
| グレード | 状態 | 症状の目安 |
|---|---|---|
| グレード1 | 手で押したときだけ脱臼し、放すと自然に戻る | ほぼ無症状 |
| グレード2 | 自然に脱臼する。手で押すと元に戻る | 間欠的な跛行・スキップ歩行 |
| グレード3 | 常に脱臼状態。手で戻せるが放すと再脱臼 | 持続的な跛行・後肢の筋萎縮 |
| グレード4 | 常に脱臼。手でも戻せない。骨の変形も伴う | 重度の歩行障害 |
グレード1・2は保存療法が第一選択です。グレード3・4では外科手術が推奨されます。グレードは定期的な獣医師による触診・画像検査で評価してもらいましょう。
犬のパテラが多い犬種
O’Neill et al.(2016)の英国での疫学調査によると、パテラの発症リスクが高い犬種は以下の通りです:
- チワワ(対照犬種比 約32倍のリスク)
- ヨークシャーテリア(約17倍)
- ポメラニアン(約12倍)
- トイプードル・マルチーズ・ミニチュアピンシャー
これらの犬種を飼っている方は、早期発見のために定期的な整形外科検診を受けることをおすすめします。
犬のパテラの治療の選択肢
保存療法(手術以外)
グレード1〜2の軽症例では、以下の保存療法が行われます:
- 体重管理:肥満は関節への負担を増大させ、犬のパテラ症状を悪化させます
- 適度な運動:大腿四頭筋の筋力維持のための低負荷運動(ゆっくりとした歩行・水中歩行)
- サプリメント:グルコサミン・コンドロイチンなどの関節保護成分
- 疼痛管理:NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)などによる痛みのコントロール
手術療法
- 滑車溝形成術:浅い滑車溝を深く形成し、膝蓋骨が安定して収まるようにする
- 脛骨粗面転位術:膝蓋靭帯の付着部を正常な位置に移動させる
- 関節包縫縮:緩んだ関節包を縫い締める
Perry & Déjardin(2021)によると、適切な術式を選択した場合、70〜90%の症例で良好な転帰が得られると報告されています。
グルコサミン・コンドロイチンの科学的根拠
グルコサミンとコンドロイチンは関節軟骨の主要な構成成分であり、サプリメントとして補給することで軟骨の修復・保護をサポートすると考えられています。
McCarthy et al.(2007)が行った無作為化二重盲検試験では、変形性関節症の犬にグルコサミン・コンドロイチン硫酸を投与したところ、70日目に症状が有意に改善したしたことが示されました。
Bhathal et al.(2017)のレビュー論文では、「安全性は高く、補助療法としての選択肢として位置づけられる」と結論付けています。犬のパテラに伴う二次的な軟骨損傷の進行を遅らせる補助手段として、獣医師と相談のうえで活用することが考えられます。
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膝サポーターで関節を物理的にサポート
運動時や散歩時に犬用膝サポーターを使用することで、物理的に膝蓋骨を支え脱臼を軽減することができます。グレード1〜2の軽症例や、手術後のリハビリ期間に有効です。
ソフト素材で膝蓋骨を優しく固定する犬用サポーター。グレード1〜2の軽症パテラや術後リハビリ期の物理的サポートに使用でき、散歩・運動時の脱臼リスクを軽減します。
犬のパテラ予防と日常ケアのポイント
体重管理が最重要
肥満は後肢関節への負荷を大幅に増大させ、犬のパテラの症状悪化・進行を促します。理想体重の維持がパテラの予防に最も効果的のひとつです。
大腿部の筋力維持
大腿四頭筋などの筋力を維持することで、膝蓋骨を正常な滑車溝に保つ補助的な役割を果たします。急激な高負荷運動(ジャンプ・急方向転換)は避け、ゆっくりとした散歩や水中歩行などの低負荷運動を継続しましょう。
室内環境の整備
フローリングなど滑りやすい床は犬のパテラを悪化させる要因になります。ラグやコルクマットで滑りを防ぎ、ソファやベッドへの飛び乗り・飛び降り対策にステップやスロープを設置しましょう。
定期的な獣医師診察
犬のパテラはグレードが進行するにつれて関節の変性も進みます。定期的な整形外科検診でグレードの変化を把握し、必要に応じて早期に手術の適否を判断することが長期的な生活の質(QOL)の維持につながります。
まとめ
- 犬のパテラ(膝蓋骨脱臼)は小型犬に多い整形外科疾患で、先天性・遺伝性の骨格異常が主な原因
- グレード1〜2では体重管理・サプリメント・筋力維持などの保存療法が第一選択
- グレード3・4は外科手術が推奨され、適切な術式で70〜90%が良好な転帰
- グルコサミン・コンドロイチンは補助療法として有効性が示されているが、効果発現は緩やか(約70日)
- 日常ケアの柱は「体重管理」「筋力維持」「床材対策」「定期診察」
「後ろ足をかばっている」「スキップするように歩く」と感じたら、早めにかかりつけの獣医師に相談しましょう。早期発見・早期対応が鍵となるです。
参考文献
- O’Neill DG, Meeson RL, Sheridan A, Church DB, Brodbelt DC. (2016). The epidemiology of patellar luxation in dogs attending primary-care veterinary practices in England. Canine Genetics and Epidemiology, 3, 4.
- Di Dona F, Della Valle G, Fatone G. (2018). Patellar luxation in dogs. Veterinary Medicine: Research and Reports, 9, 23–32.
- Perry KL, Déjardin LM. (2021). Canine medial patellar luxation. Journal of Small Animal Practice, 62(5), 315–335.
- McCarthy G, O’Donovan J, Jones B, McAllister H, Seed M, Mooney C. (2007). Randomised double-blind, positive-controlled trial to assess the efficacy of glucosamine/chondroitin sulfate for the treatment of dogs with osteoarthritis. The Veterinary Journal, 174(1), 54–61.
- Bhathal A, Spryszak M, Louizos C, Frankel G. (2017). Glucosamine and chondroitin use in canines for osteoarthritis: A review. Open Veterinary Journal, 7(1), 36–49.
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この記事について:当サイトでは獣医師(PhD・DVM)が科学論文をもとに執筆しています。
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