「目の下が常に茶色く染まっている」「涙が止まらない」——犬の涙やけに悩む飼い主さんは多くいます。涙やけ(エピフォラ)は見た目の問題にとどまらず、皮膚炎・細菌感染・基礎疾患のサインである場合があることが獣医学的に示されています。そこで重要なのが、原因を正しく理解した科学的なケアです。
本記事では、犬の涙やけ・目のトラブルの原因から、獣医学論文に基づく予防・ケア方法、おすすめグッズの選び方まで詳しく解説します。
犬の涙やけ(エピフォラ)とは
涙やけとは、過剰な涙(流涙症・エピフォラ)が目の下の被毛を茶〜赤褐色に変色させる状態です。涙に含まれるポルフィリン(鉄を含む色素)が空気に触れて酸化することで変色が起きます。単なる美容上の問題ではなく、湿った被毛は細菌・酵母が繁殖しやすい環境となり、皮膚炎を引き起こすことがあります。
涙やけの主な原因
涙やけの原因は「涙の過剰分泌」と「涙の排出障害」の2つに大別されます。それぞれに複数の原因が存在します。
① 涙管閉塞・鼻涙管の異常
涙は通常、鼻涙管(びるいかん)を通って鼻腔へ排出されます。この経路が閉塞・狭窄すると涙があふれ出し、涙やけが生じます。Gelatt ら(2007)は、短頭種(トイプードル・マルチーズ・シーズーなど)では鼻涙管の走行が解剖学的に屈曲しやすく、排出障害を起こしやすい構造的素因があることを報告しています。
② 逆さまつ毛・まつ毛の異常
逆さまつ毛(睫毛乱生・睫毛重生)は角膜を慢性的に刺激し、反射性の流涙を引き起こします。特に小型犬・短頭種では睫毛異常の有病率が高く、涙やけの主要因のひとつです。自己判断での処置は難しく、動物病院での診断が必要です。
③ アレルギー・炎症
食物アレルギーや環境アレルギー(花粉・ハウスダストなど)が結膜炎・流涙を引き起こすことがあります。Santoro ら(2024)は、アトピー性皮膚炎を持つ犬の多くに眼周囲の症状が見られることを報告しており、涙やけがアレルギーの早期サインである可能性を示しています。
④ 被毛の目への接触
顔周りの長い被毛が目に触れ続けることで、角膜・結膜を機械的に刺激します。定期的なトリミングで目周りの被毛を短く保つことが、涙やけの予防として非常に有効です。
⑤ 食事・水の質
一部の研究では、食事中の添加物・鉄分・マグネシウムの過剰摂取がポルフィリン産生を増加させ、涙やけを悪化させる可能性が指摘されています。また、水道水中のミネラルが関係するという報告もあります。ただし、食事・水質の関与は科学的に完全には確立されておらず、まず獣医師への相談が優先されます。
科学的に正しい涙やけのケア方法
涙やけケアの基本は「清潔に保つ」「原因を除去する」「悪化を防ぐ」の3ステップです。
毎日の目周りの清拭
目の下に涙が溜まったまま放置すると、細菌・酵母が繁殖して皮膚炎に発展します。低刺激の涙やけ専用ウェットティッシュや生理食塩水を含ませたコットンで、毎日やさしく拭き取ることが基本ケアです。こすりすぎは皮膚を傷つけるため、やさしく押さえながら拭き取ります。
目周りのトリミング
被毛が目に触れている場合は、定期的なカットで接触を防ぎます。自宅でのカットは目を傷つけるリスクがあるため、プロのトリマーに依頼するか、先端が丸いハサミを使用してください。
食事の見直し
アレルギーが疑われる場合、Halliwell ら(2021)が推奨する除去食試験(加水分解タンパクフードまたは新規タンパク源フードへの変更)が有効な場合があります。最低8週間の除去食試験が眼症状の改善にも効果的とされています。
動物病院を受診すべきサイン
以下のサインがある場合は、自己ケアにとどまらず速やかに動物病院を受診してください。
- 目やにが黄色・緑色・膿状になっている
- 白目(強膜)が充血・赤くなっている
- 角膜が白濁または傷ついている
- 目を頻繁にこする・床に顔をこすりつける
- 片目だけ急に涙が増えた
- 涙やけが急激に悪化した
これらは緑内障・角膜潰瘍・異物・感染症など、緊急性の高い疾患のサインである場合があります。
涙やけケアにおすすめのグッズ
涙やけケアグッズは「拭き取り」「洗浄」「被毛ケア」の3カテゴリから選ぶのが効果的です。
① 涙やけ専用ウェットシート
毎日の目周り清拭に使う低刺激ウェットシートです。アルコール・防腐剤フリーのものを選びましょう。目周りの敏感な皮膚に対応した犬専用処方であることが重要です。
② アイクリーナー(目の洗浄液)
目の周囲や結膜嚢を洗浄する専用液です。花粉・ほこり・余分な分泌物を洗い流し、炎症を予防します。獣医師監修の低刺激処方を選ぶのがおすすめです。
③ 涙やけサプリメント
ポルフィリン産生を抑える成分(ラクトフェリン・ビタミンCなど)を配合したサプリメントです。根本的な治療にはなりませんが、補助的なケアとして活用できます。使用前に獣医師への相談を推奨します。
関連記事:犬の換毛期ケアの科学についての詳しい解説もあわせてご覧ください。
まとめ
- 涙やけ(エピフォラ)は鼻涙管閉塞・逆さまつ毛・アレルギー・被毛接触などが主な原因
- ポルフィリンが酸化することで被毛が茶褐色に変色する
- 毎日の目周り清拭・トリミング・食事管理が基本ケア
- アレルギーが疑われる場合は最低8週間の除去食試験が有効
- 目やにの色・充血・角膜の白濁などのサインは速やかに受診
- 涙やけグッズは「拭き取り・洗浄・サプリ」の3カテゴリで選ぶ
参考文献
- Gelatt KN, et al. (2007). Veterinary Ophthalmology, 5th ed. Wiley-Blackwell.
- Santoro D, et al. (2024). Update on the skin barrier, cutaneous microbiome and host defence peptides in canine atopic dermatitis. Vet Dermatol, 35(1), 5-14.
- Halliwell R, et al. (2021). Feline allergic diseases: introduction and proposed nomenclature. Vet Dermatol, 32(1), 8-e2.





