ソファや壁で爪を研がれて困っている——猫と暮らす多くの飼い主が一度は悩む「爪とぎ」。猫の爪とぎは困った行動ではなく健康な本能であり、やめさせるのではなく正しい場所へ誘導するのが正解です。力ずくで禁止すると、かえってストレスや問題行動を招いてしまいます。
同じように、猫の爪切りも「やり方が分からない」「暴れて切れない」と苦手意識を持つ方が少なくありません。本記事では、猫の爪とぎの理由と爪とぎ器の選び方、家具での困った爪とぎをやめさせる方法、そして失敗しない爪切りのコツまでを、獣医師監修のもとでわかりやすく解説します。やってはいけないケアや、爪のトラブルの見分け方についても触れます。
猫の爪とぎはなぜ必要?やめさせてはいけない理由
猫の爪とぎは、ほぼすべての猫が行う正常で大切な行動です。Wilsonら(2016)は、飼い主への大規模なインターネット調査から、爪とぎが猫に共通する自然な習性であることを示しています。爪とぎには、次のような複数の意味があります。
| 爪とぎの意味 | 内容 |
|---|---|
| 古い爪のお手入れ | 外側の古い層をはがし、鋭い爪を保つ |
| マーキング | 肉球の臭腺と爪あとで縄張りを主張する |
| ストレッチ・運動 | 全身を伸ばして筋肉をほぐす |
| 気分転換 | 興奮やストレスを発散する |
つまり、猫の爪とぎを完全にやめさせることはできませんし、無理に禁止すれば猫のストレスや別の問題行動につながります。大切なのは、研いでよい場所をきちんと用意して誘導することです。爪とぎとストレスの関係は、こちらの記事もご覧ください。
また、猫の爪とぎは心の健康とも深く関わっています。引っ越しや来客、多頭飼いなどでストレスがかかると、猫は爪とぎの回数を増やして気持ちを落ち着けようとします。爪とぎ器が足りないと、そのはけ口が家具に向かってしまうこともあるのです。

猫が気に入る爪とぎ器の選び方
猫に爪とぎ器を使ってもらう第一歩は、その猫の好みに合うものを選ぶことです。Zhangら(2019)は、子猫が特定の素材や形状の爪とぎ器を好むことを報告しています。猫によって好みは大きく分かれるため、いくつか試すのがおすすめです。
素材と形状で選ぶ
爪とぎ器の素材は段ボール・麻縄・カーペット・木などがあり、形状も縦型と横型に分かれます。立って研ぐのが好きな猫には倒れにくい縦型ポール、寝そべって研ぐ猫には横置きタイプが向いています。
| 素材 | 特徴 |
|---|---|
| 段ボール | 安価で研ぎ心地が良い。カスが出やすい |
| 麻縄 | 丈夫で長持ち。縦型ポールに多い |
| カーペット地 | キャットタワーと一体型が多い |
設置場所のコツ
置き場所も、使ってもらえるかどうかを大きく左右します。Moestaら(2018)は、爪とぎ器の設置などの工夫が、不適切な場所での爪とぎ予防に役立つことを示しています。猫が寝起きする場所、部屋の出入り口、そして今まさに研がれて困っている家具のすぐそばに置くのが効果的です。倒れてこない安定感も大切です。
数は「猫の数+1個」が目安
猫の爪とぎ器は1個では足りないことが多く、猫の数+1個を複数の部屋に置くのが理想です。研ぎたいと思った場所にすぐ使えるものがあると、猫は家具を選ばなくなります。気に入らない様子なら、素材や形状を変えて試しましょう。
なお、ボロボロになった爪とぎ器をすぐ捨てるのは禁物です。猫は自分のにおいがついた爪とぎ器を好むため、使い込まれたものほど安心して使う傾向があります。
キャットタワーと一体になった爪とぎなら、運動・休憩・爪とぎを一か所でまかなえて省スペースです。上下運動が好きな猫には特におすすめです。
家具での“困った爪とぎ”をやめさせる方法
家具やソファで爪とぎをされても、叱るのは逆効果です。Cisnerosら(2022)は、適切な爪とぎ器を用意するなどの管理方法が、望まない爪とぎを減らすのに有効だと報告しています。DePorterら(2019)も、破壊的な爪とぎへの行動学的な対処法を解説しています。
具体的には、研がれて困る場所には保護シートを貼り、そのすぐ近くに好みの爪とぎ器を置いて誘導します。Cozziら(2013)は、猫の指の間から出るフェロモン(半化学物質)が、爪とぎ器への爪とぎを促すのに有効だったと報告しています。マタタビやフェロモン製品で爪とぎ器に興味を持たせるのも効果的です。
やってはいけないのは、霧吹きで水をかけたり大声で叱ったりすることです。猫は「爪とぎが悪い」とは理解できず、ただ飼い主を怖がるようになり、信頼関係が壊れてしまいます。困った爪とぎは『罰』ではなく『誘導』で解決するのが鉄則です。
保護シートは透明タイプを選ぶと見た目を損ないません。猫が気に入る爪とぎ器が見つかるまで、段ボール・麻・カーペットなど数種類を並べて試すのが解決への近道です。
失敗しない猫の爪切りの方法
猫の爪切りは、2〜3週間に1回を目安に行いましょう。伸びすぎた爪は、カーペットに引っかかって折れたり、丸まって肉球に刺さったりします。特に運動量の減ったシニア猫は爪が太く伸びやすく、完全室内飼いの猫は自然に爪が削れにくいため、定期的な爪切りが欠かせません。
| 手順 | ポイント |
|---|---|
| 明るい場所で爪を出す | 肉球をやさしく押して爪を出す |
| 切る位置を見る | ピンク色の血管(クイック)の2mm手前まで |
| 専用爪切りで切る | 先端だけを少しずつ。深爪は出血の原因 |
| 一度に全部やらない | 嫌がる前に終える。ごほうびを忘れずに |

嫌がる猫への工夫
嫌がる猫には、1回に1〜2本ずつでも十分です。寝起きやくつろいでいるとき、おやつを使いながら少しずつ進めましょう。バスタオルで体をやさしく包むと落ち着く猫もいます。歯磨きと同じで、子猫のうちから足先を触られることに慣らしておくと、生涯のケアがぐっと楽になります。

深爪で出血したときは
もし深爪をして出血しても、慌てる必要はありません。清潔なガーゼやティッシュで数分しっかり押さえれば、多くは止まります。市販のペット用止血パウダーがあるとより安心です。なかなか止まらない、痛がって足をつけない場合は動物病院に相談しましょう。
やってはいけない「抜爪(だっそう)」
海外では爪を生えなくする「抜爪(だっそう/declawing)」が行われることがありますが、絶対に避けるべき処置です。LaChanceら(2025)は、抜爪が神経の過敏化を引き起こし、長期的な痛みにつながることを報告しています。抜爪は指の第一関節を骨ごと切除する手術で、日本ではほとんど行われません。どうしても引っかきが問題なら、爪に装着するソフトなネイルキャップという選択肢があります。爪を取り除くのではなく、こまめな爪切りと爪とぎ器で対応するのが、猫にやさしい方法です。
猫の爪は、木に登る・身を守る・物をつかむなど、暮らしに欠かせない大切な体の一部です。引っかかれて困る気持ちはわかりますが、猫の爪とぎ器の用意とこまめな爪切りという正しいケアで、ほとんどの問題は解決できます。
猫の爪に多いトラブルと健康チェック
爪切りのときは、爪そのものの健康チェックもあわせて行いましょう。特にシニア猫や運動量の少ない猫は、爪が太く伸びて肉球に巻き込むように刺さる「巻き爪」を起こしやすくなります。次のようなサインに気づいたら注意してください。
| トラブル | サイン・対応 |
|---|---|
| 巻き爪 | 爪が肉球に刺さる。早めに切る/受診 |
| 割れ・出血 | 引っかけて折れる。止血して様子を見る |
| 根元の腫れ・化膿 | 赤み・痛み・においは感染の疑い。受診 |
| 多指症 | 指が多い猫は爪の見落としに注意 |
爪の根元が赤く腫れている、出血が止まらない、触ると強く痛がるといった場合は、感染や炎症の可能性があります。自己判断で放置せず、早めに動物病院で診てもらいましょう。
爪とぎ・爪切りケアにおすすめのグッズ5選
猫の爪とぎと爪切りを上手にこなすための、おすすめグッズを5つ紹介します。愛猫の好みや暮らしに合わせて選んでみてください。
まとめ
猫の爪とぎは、爪のお手入れやマーキング、ストレス発散を兼ねた大切な本能で、やめさせるのではなく正しい場所へ誘導するのが基本です。猫の好みに合う素材・形状の爪とぎ器を選び、寝起きの場所や研がれて困る家具のそばに設置しましょう。困った爪とぎには、保護シートとフェロモン誘導の合わせ技が有効です。爪切りは2〜3週間に1回、血管の手前まで少しずつ。嫌がる猫は1〜2本ずつ、子猫のうちから慣らすのがコツです。そして、指を骨ごと切る抜爪は避け、必要ならネイルキャップを活用してください。正しいケアで、愛猫の健康も大切な家具も守りましょう。爪とぎは叱らず、上手に付き合うことが何より大切です。
参考文献
- Wilson C, et al. (2016). Owner observations regarding cat scratching behavior: an internet-based survey. Journal of Feline Medicine and Surgery.
- Zhang L, et al. (2019). Preference of kittens for scratchers. Journal of Feline Medicine and Surgery.
- Moesta A, et al. (2018). Survey of cat owners on features of, and preventative measures for, feline scratching of inappropriate objects: a pilot study. Journal of Feline Medicine and Surgery.
- Cisneros A, et al. (2022). Unwanted Scratching Behavior in Cats: Influence of Management Strategies and Cat and Owner Characteristics. Animals.
- DePorter TL, et al. (2019). Common feline problem behaviors: Destructive scratching. Journal of Feline Medicine and Surgery.
- Cozzi A, et al. (2013). Induction of scratching behaviour in cats: efficacy of synthetic feline interdigital semiochemical. Journal of Feline Medicine and Surgery.
- LaChance M, et al. (2025). Declawing in cat is associated with neuroplastic sensitization and long-term painful afflictions. Scientific Reports.
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